体罰に従順な犬。愛情に攻撃的な犬。

インターネットである飼い主さんのお悩みを目にしました。

犬のしつけで叩くことは間違っているのか、というお悩みでした。

 

ご夫婦2人で1才になるポメラニアンを飼われているその方は、

旦那様とのしつけ方の違いについて書かれていました。

 

彼女の場合は、悪いことをしたら絶対に叩かず、音と声で叱るというものです。

一方で旦那様の場合は、悪いことをしたら思いきり叩き、首をつかみ壁に叩きつけたり投げたりするそうです。そのコは悲鳴を上げ、時に泡を吹くこともあるそうです。

 

奥様は旦那様のそのおこないに耐えられず、毎回止めに入っています。

旦那様の主張は、言葉が通じないのだから、誰が怖くて強いか認識させる必要があるとのことです。

 

このお悩みの本題はここからです。

最近、床に落とした唐揚げを犬に取られて、奥様がそれを取り返そうとした時、そのコに激しく噛みつかれました。

その後に、旦那様が取り返そうとすると、旦那様が近づいただけで、そのコは唐揚げを口から離したとのことです。

 

この件があってから、旦那様は自分のしつけ方法に間違いがない事を確信し、奥様は普段から愛情をもってお世話の全てをおこなっていた事もあり大変ショックを受けたそうです。

この出来事以外にも、普段から旦那様がいると困った行動は起こらなかったり、旦那様が呼べば走っていったりするそうです。

彼女は、今回の件以降、愛犬にどのように接したらいいのか分からなくなり悩んでいらっしゃいました。

 

 

 

この旦那様の行為は、もちろん犬の命に関わるとても危険な行為で言語道断なのですが、

ここまでの体罰でなくても、このようなケースはよくあると思うんです。

厳しく叱っている人には従順な犬が、他の人に対して攻撃的になっているというようなケースです。

実際に私がお会いする飼い主さんからも、同じようなことを伺います。

 

とても不思議な光景だと思います。

犬を怖がらせている人に、その犬がとても懐いているように見えるのですから。

 

いったい何が起こっているのでしょうか。

 

 

 

体罰を受け、力でかなわないと感じた犬は、その人に対して従順になります。

体罰を避けるために従うようになるのです。

言うなれば、その状況で生きていくために従っているということです

そして体罰をする人に対して、犬が懐いているような行動を見せるのは、

飼い主の攻撃性を下げるために、自分に敵意がない事を必死で示そうとしているのではないかと言われています。

その時に見せる犬たちの行動は、時に子犬のように無邪気にも見えます。

他の動物に比べて犬たちがこれほど顕著な行動を示すのは、人と暮らすためにおこなわれてきた幼形成熟(ネオテニー)という品種改良の影響ではないかと私は考えています。

 

 

また力によって関係を築かれた動物は、その場にいる他のものに対しても、同じように力で関係を築こうとするようになることが、動物行動学の研究で示唆されています。

体罰を受けている犬が、一緒に暮らす家族に対してとても攻撃的になるのはそのためです。

体罰をおこなっている人に対しては“従順”になっているため、その方法に間違いが無いように思われてしまうのですが、力での関係を築いた結果、愛犬が家族に対して攻撃的になっているということを理解していただきたいのです。

 

 

このような「力で関係を築く」という事について考えてもらいたいことがあります。

それは、力の関係を築いているかどうかを判断するのは、人間側ではないということです。

愛犬がどのように受けとるかが全てです。

だから一般的に体罰とは言われない、仰向け抱っこや叱責だけでも、犬によっては力での関係と受け取る可能性は十分にあります。

もしもご家族に小さなお子様がいらっしゃるのなら、大きな事故につながりかねません。

慎重に考えていきたいことです。