【愛犬のしつけ】「吠え止んだらを褒める」を考える

犬は様々な方法で私たちに気持ちを伝えようとしてくれます。

吠えるというのも、犬が持つコミュニケーションのための自然な行動のひとつです。

ただ残念ながら、この自然な行動が愛犬と一緒に暮らしていくための障害になることがあります。

コンピスにも多くの方が愛犬の吠えについて相談にいらっしゃいます。

 

動物福祉の観点から考えると、5つの自由にもある通り、自然な行動を禁止するということは、犬にとってとても不幸な事でもあります。

犬の吠えるという行動を禁止することは、人間に「しゃべるな」と言うのと同じことかもしれませんね。

 

では犬の幸せを考えたら、吠えることをやめさせるべきではないのでしょうか。

 

それは違うと思います。

私は「環境が行動を制御する」という考え方を持っているため、

犬の吠えるという行動も、環境によって制御されていると考えます。

だから、目が血走るくらい、よだれをまき散らすように吠える犬を見るたびに、

犬自身も己のその行動を止めることができないのではないかと感じます。

その吠えずにはいられないような、その結果リラックスして休むこともできないような環境で暮らしている犬は、果たして幸せでしょうか。

 

前置きが長くなりました。

いろいろと考えることはあるのですが、本題に入ります。

 

 

今回は吠えるという行動への対応方法でよく紹介される「吠え止んだら褒める」という方法について考えていきたいと思います。

 

この方法に効果が期待できるかどうかを考えるために、まず行動の原理を押さえておきましょう。

行動した後にうれしいことが起こると、その行動はどんどん行われるようになります。

この行動が変化する現象を正の強化と呼びます。

心理学(行動分析学)の専門書には、

「ある行動の結果事象として何らかの刺激が出現する(もしくは増強する)ことによって、その後、その行動の生起頻度が増加もしくは維持されること」

と書かれています。(はじめてまなぶ行動療法より)

 

この正の強化の原理を参考にして、「吠え止んだら褒める」という提案がされているのですね。たぶん・・・

 

でも

 

ちょっと待ってください。

 

吠え止む事を褒める事で、本当に吠え止むという事は増えるのでしょうか。

 

正の強化の定義には「ある行動の結果事象として・・・」と書かれています。

行動分析学で考える場合、この「行動」には一般に考えられているものとはちょっと違う定義が採用されています。

 

行動分析学には死人テスト(Dead Man’s Test)という考え方があり、「死人でもできることは行動ではない」とされています。(行動分析学入門より)

例えば、

「~される」といった受け身の形や、

「~している」といった状態、

「~しない」といった否定の形、

これらは行動ではないという事です。

死人は簡単殴られます。死人は動かないので静かにしていることもできます。死人は何もしません。

「吠え止む」という表現も、吠えていない、吠えない、何もしていない、と同じ状態と言えます。

これらを行動とすると、行動分析学で考えることが難しくなってしまうのですね。

 

 

この死人テストは、別に言葉遊びをしているわけではありません。

 

例えば、この死人テストをパスしていない事を褒めるとしましょう。

吠え止む事を褒めます。

 

そうすると以下のようなことが言えるのではないでしょうか。

a) 犬が吠え止んだら褒める

b) 犬が吠えた後に褒める

 

aとb、これらは状況から見ると同じことをしていると思いませんか?

犬が経験する出来事として、どちらも吠えた後に褒められるということになっていないでしょうか?

これでは、吠え止むという事を増やそうとして褒めているのに、吠える行動がどんどん悪化していくかもしれませんね。

 

何に対して褒めているのかをきちんと押さえておかないと、トレーニングは失敗に終わってしまう事があります。

長年トレーニングしているのに、なかなか効果がでてこないのは、このような事が要因になっているかもしれませんね。

 

 

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