陽性強化という言葉が使われなくなった理由
陽性強化法
犬のしつけやトレーニングで使われる方法の1つで、ペットのしつけをする際の基本的な考え方。犬の自発的な良い行動をほめ、さらに良い結果を誘導する反応強化法として確立している。陽性強化をする場合には、犬の動機づけ(注目をさせ集中させる)にモチベーター(ほうび)を与える。モチベーターは、ほめる、愛撫、散歩、おもちゃ、食べ物など。(石田卓夫 日本臨床獣医学フォーラム代表 / 2007年)
(コトバンクより)
“陽性強化”という言葉は、上記にある通り褒めて教えるトレーニング方法を総称する言葉として主に使われ、ドッグトレーニングの世界で用いられています。
ドッグトレーニングというものに興味があったり、調べ物をしたことのある方は、この言葉を目にしたことがあるのではないでしょうか。
褒めるトレーニング方法が注目されるようになった20年くらい前から頻繁に使われるようになり、多くのドッグトレーナーたちが、自分たちのおこなっているトレーニング方法を表すのに、陽性強化という言葉を使ってきました。
今でも使っていらっしゃるトレーナーさんたちは大勢います。
しかし学習理論に基づいたドッグトレーニングが注目されるようになった現在において、この陽性強化という言葉は使われなくなってきています。
それは学習理論を学んだ人には、この陽性強化という言葉が本来の意味とは違う、間違った使われ方をしていることが分かるからです。
この陽性強化という言葉は、本来、心理学の専門用語である「正の強化」を意味する言葉です。
正の強化とは、
「行動の直後に、刺激が出現または増加することで、その行動が将来起こりやすくなる」
という現象の事をいいます。
“正”とは、行動の直後に刺激が出現または増加することを意味し、
“強化”とは、行動が起こりやすくなることを意味しています。
行動とそれに随伴する環境から、行動の生起頻度の変化を見るための考え方の一つなんですね。
褒めるトレーニングや褒めるテクニックのことを言っているのではけっしてありません。
しかしこの考え方は、行動に対する一般的な認識から少し離れているため、理解することが難解だったりします。
少し齧っただけの人は、「私たちが行っているこのトレーニング方法は正の強化と呼ぶんだ」となり、それで終わってしまいます。
正の強化は英語表記でpositive reinforcementとなります。
20年ほど前に褒めて教えるドッグトレーニングが注目されるようになって、海外から大勢の“有名な”ドッグトレーナーたちが日本にやってきてセミナーを開きました。
海外の有名と呼ばれるドッグトレーナーたちのトレーニング本が日本語に翻訳されました。
当時のそのドッグトレーナーたちのpositive reinforcementに対する理解が、「褒めて教える方法の総称」という理解だったのですね。
実際に、私が学生の頃に受けたセミナーでも、海外から来た講師がそのように説明されていました。
正の強化という言葉を知らない当時の通訳者や翻訳者は、positive reinforcementを陽性強化と訳し、それがそのまま定着してしまったのだと思います。
学習理論を学んだ人たちは、心理学の専門用語として正の強化という言葉があることを知っています。
陽性強化という言葉が、本来の意味とは違った使われ方をしていることも知っています。
褒めてさえいれば陽性強化ということではないんです。本来は。
もしも、
もしも20年前にこのpositive reinforcementという言葉が正しく広まっていれば、、、
ドッグトレーニングの世界はもっと発展していたのではないかと思うんです。
今、ドッグトレーナーを育成しているドッグトレーニングの先生方にお聞きしたいです。
言葉を正しく伝えていますか?
当時と同じ過ちを繰り返さないようにしたいですね。