愛犬に我慢を教えようとすることの危険性について

「暴れても絶対に手を放してはいけない。暴れたら助かると学習するから」

「嫌がるからとやめていたらわがままになるから」

ブラッシングや爪切りといった犬のお手入れに対して、このようなアドバスをよく耳にします。

動物福祉の向上を掲げる現在のドッグトレーニングからすると、ちょっと受け入れる事のできない方法です。

 

 

確かに行動の変化には負の強化消去といった現象があります。

 

行動した結果、不快な事が止むと、その行動は繰り返されるようになります。

この行動の変化を負の強化と呼びます。

暴れた結果、不快な事が止むと、どんどん暴れるようになる可能性があります。

 

行動しても、状況が変わらなければ、その行動は減少します。

この行動の変化を消去と呼びます。

暴れても押さえ続けたら暴れなくなっていく可能性があります。

 

これらの行動の変化をあなたはどう捉えますか?

 

愛犬が嫌がっているところで作業を中断していると、どんどん嫌がるようになっていった。

その様子を見て「わがまま」になってきたと捉える方もいらっしゃるでしょう。

愛犬が暴れても押さえつけて作業を続けていたら、暴れなくなった。

その様子を見て「お利口になった、我慢できるようになった」と捉える方もいらっしゃるかもしれません。

 

私は少し違います。

愛犬が暴れても押さえつけて作業を続けていたら暴れなくなったという状況。

ここで起こっていることは「我慢」ではなく「諦め」だと考えます。

“我慢”という考え方はとても擬人的です。

野生の動物が、外部刺激による痛みや恐怖に対して“我慢”してその場にとどまっていたら、命を落とす確率が高まるでしょう。

生存率を著しく下げてしまうそのような行為は、動物にとってとても不自然な行為なはずです。

そのような不自然な行為を受け入れることが犬にとってどれだけ大変な事か容易に想像できます。

人間にとっては我慢は美徳です。でも動物にとっても同じとは限りません。

いつまで続くか分からない苦痛に対する諦め、それは死を悟るのと同じような状況ではないでしょうか。

 

 

このようにいろいろと考えることはあるのですが、行動の捉え方は人によって異なります。

自分が抱いているイメージを相手に伝える事はとても難しいですよね。

このようなすれ違いを避けるために、ちょっと行動の法則から考えてみましょう。

注意しなければいけないことが見えてくるはずです。

 

 

行動しても、状況が変わらなければ、その行動は減少していきます。

この行動の変化を消去と呼びます。

そして行動に消去が起こる時、必ず消去バーストと呼ばれる現象も起こります。

 

用語解説

消去バーストとは、消去の手続きを開始した直後、一時的に、行動の頻度や強度が爆発的に増えること。(行動分析学入門より)

 

不快な事に対して、暴れても押さえ続けるという行為を行うと、さらに激しく暴れるでしょう。

この消去バーストがどれほど犬の身体に負担をかけているかを想像していただきたいです。

消去バースト中の犬は、目を血走らせながら、呼吸も苦しそうにして必死でもがいているはずです。

このような状況で舌色が悪くなりチアノーゼを起こしている犬を見たことはありませんか?

極稀に動物病院で短頭種が保定中に命を落とすという事故が実際に起こることから、このような状況での消去バーストは、犬の命に関わるくらい身体に大きな負担をかけていると私は考えています。

 

また消去バーストには行動の幅が広がるという特徴もあります。

負の強化で維持されている行動に対して消去の手続きを単独で行うと、犬の場合ここで攻撃的な行動が出現します。

押さえつけている飼い主の腕の中で愛犬は唸り噛みつこうとします。

ここでも飼い主は暴れても放してはいけないという考えで行っているわけですから、負けずに頑張って押さえようとします。

そうするとその噛みつく行動もさらに激しくなります。

このような状態で押さえて作業を続けられる人はどれくらいいるでしょうか。

消去バーストが起こり激しく噛みつかれた結果、もしもその手を放したり作業を中断したりしたら、、

その強度の噛みつく行動が定着します。

最悪ですね。

とても危険な事だということをご理解ください。

 

犬が強く不快に感じていることに対して、暴れても押さえ続けるという方法は、効果のある方法だとしてもリスクが大きすぎます。

安易に提案するものでもありませんし、行うものでもありません。

 

 

 

ここからは補足的なお話になります。

ここまで読まれた方は、消去バーストがとても危険なものだと感じたのではないでしょうか。

では、この消去や消去バーストと呼ばれる現象は絶対に起こしてはいけない悪いものなのでしょうか。

 

これに関しては人によって意見の分かれるところだと思います。

そのつもりで読み進めてください。

 

私はこの消去や消去バーストといった現象を一概に悪いものだとは考えていません。

 

ドッグトレーニングの世界で頻繁に行われているシェイピングという技法があります。

シェイピングとは、目標となる行動を目指してそれに近い行動を順番に強化して教えていく方法です。

消去や消去バーストは、このシェイピングの中でも繰り返し起こっています。

 

例えば、2m離れてた所に置いたマットまで行くように愛犬に教えるとしましょう。

最初は、マットの方向に少しでも動いたら褒めます。ここでマットの方向に動く行動が強化されるわけですね。

次に、マット以外の方向に動いても褒めません。そうするとマット以外の方向に動く行動に消去が起こります。

動いても褒められないという状況になると、犬はいろいろな方向に活発に動き始めます。消去バーストです。

消去バーストの中で偶然にもマットの方向に動いたらそこで褒めます。これによってさらにマットへ向かう行動が強化されます。

シェイピングはこのような事を繰り返して教えていきます。

 

消去バーストの中にいる犬が、どうしたら褒められるかを考えながら動いている様子から、この消去バーストは試行錯誤という言葉で表現されることもあります。

消去バーストには行動を強化しやすくしたり、新しい行動を引き出したりする作用もあるのですね。

一概に悪いものとは言えないのではないでしょうか。

 

 

以上の事を踏まえてまとめます。

犬の場合、負の強化で維持されている行動に対して消去の手続きを単独でおこなう事は危険です。

行動が激しければ激しいほどそれに対する消去バーストも激しくなります。だから愛犬の問題行動に対して消去の手続きを単独で乱暴に行っても絶対にうまくいきません。

通常、消去は強化とセットでおこなわれるものです。

こういった事をきちんと考えていきたいですね。

 

 

 

 

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