犬の心を読む方法?

ドッグトレーナーは犬の行動について解説をします。

犬がどんな気持ちなのか、その行動にはどのような理由があるのか、そういった犬たちの気持ちや感情を飼い主さんに説明することもドッグトレーナーの仕事ではよくあります。

でもそういったことを行っていると、ドッグトレーナーは犬の心が読めるかのように思われたりするんですよね。

巷では「テレパシーを用いて犬たちの心を読み取ります・・・」な方々がいらっしゃいますが、ドッグトレーナーが行っていることと、そういったスピリチュアル的なものを混同されてはたまらないなぁと感じ、今回のことを取り上げようと思いました。

 

ドッグトレーナーは犬の行動と向き合う時、その犬が何を考えどんな気持ちでその行動しているのかを推測します。

そして推測するための手段として大きく貢献しているのが、犬のボディーランゲージに関する知見です。

犬のボディランゲージは、1996年にノルウェーのドッグトレーナートゥーリッド・ルーガス(Turid Rugaas)がカーミングシグナルを提唱したことで広く知られるようになりました。

犬が鼻をなめること、あくびをすること、カーブを描いて歩くこと、地面のニオイを嗅ぐこと、こういった動作には意味があり、犬たちはコミュニケーションをとるための手段として用いていることが観察されました。

犬に何かをさせるという一方通行なコミュニケーションがほとんどだった犬との関わりは、こういったボディランゲージの発見によって大きく変わりました。

犬たちが示す動作から彼らの気持ちを推測できるようになり、それによって行動の理由も考えることができるようになりました。

犬たちへの理解はさらに深まり、彼らとの暮らしはとても豊かなものになったのですね。

 

しかしボディーランゲージを読み取ってその行動の理由を考えるという方法にも気を付けないといけないことがあります。

犬のボディーランゲージを読み取る、その読み手によって解釈が変わるということです。

カーミングシグナルのように十分な検証と観察から得られたもの以外は、どうしても推測の精度は下がってしまいます。

時に犬たちの行動は人間の都合のいいように解釈されることもあります。

人間がどのように“代弁”しても、彼らはそれに異を唱えることはありません。

本当のところは誰にも分らないため、周りから否定されることもありません。

上下関係という間違った考え方がなかなか無くならないのはここに原因があると私は考えています。

飼い主の膝に手をかける犬を見て、それは上下関係を試している!と言っていたドッグトレーナーもいましたからね。

 

こちらは犬の行動への解釈は人によって変わるという事について書いた記事です。↓

 

 

近年のドッグトレーニングでは、犬たちの行動を理解するための手段として、ボディランゲージを読み取る他に、行動研究の盛んな心理学の知識も取り入れています。

これまでのボディランゲージを読み取るという方法は行動の形から推測しているのに対して、こちらは行動の働きに注目します。

例えば、人が路上で手を挙げる行動にはどのような働きがあるでしょうか。

人は意味もなく路上で手を挙げませんよね。

タクシーを止める時、手を挙げませんか?

その手を挙げる行動は、タクシーを止めるという働きがあるということです。

 

犬たちの行動にもそれぞれ働きがあると考えます。

吠えることにも、噛みつくことにも、唸ることにも、地面のニオイを嗅ぐことにも、それぞれに働きがあります。

犬が吠えるのは相手を追い払うためかもしれません。何かを要求しているのかもしれません。

目的という行動の働きに注目してその行動の理由を考えていきます。

 

もうちょっと詳しく説明してみます。

路上で手を挙げている人がいます。

その手を挙げている様子を見てその理由を、「タクシーを止めるため」と推測することが、行動の形から考えるということですね。

これには「タクシーを止める時には手を挙げる」という知識がないと、推測することはできません。

知識として知られていない行動は推測することが難しいということです。

 

では行動の働きに注目してみましょう。

路上で手を挙げている人をもう少し観察してみます。

そうすると目の前にタクシーが止まり、その人は手を下げてタクシーに乗り込み走り去っていきました。

ここまで確認できれば、その人が手を挙げていた理由を「タクシーを止めるため」とより確実に言うことができますね。

(もしも次の日も同じ人で同じ光景を目にしたら、推測するものの確実性はさらに高まりますね)

行動の機能から推測するということは、このように行動と一緒に状況の変化まで確認して考えます。

ここで言う状況の変化とは、タクシーが「いない状況」から手を挙げることで「いる状況」に環境が変化したことを指します。

行動だけを見るのではなく、行動とその行動に随伴する状況の変化もセットで見ることができれば、より確実に行動の理由を推測することができるのではないでしょうか。

 

犬が人に吠える時、その行動にはどのような働き(理由)があるでしょう。

目の前にいる人が吠えることで遠ざかっていった。毎回そのような状況で繰り返される吠えは、相手を遠ざける(追い払う)という働き(理由)があると考えられます。

遠くにいる人が吠えることで近づいてきて撫でてくれた。毎回そのような状況で繰り返される吠えは、相手を呼ぶという働き(理由)があると考えることができます。

犬の問題行動がどのような状況で起こるのかをドッグトレーナーが知りたがるのは、こういったことを考えているからなんですよね。

犬のボディランゲージを読み取り、さらに行動の働きから考えることができれば、犬たちのことをより詳しく知ることができるのではないでしょうか。

 

 

参考書籍:

テゥーリッド・ルーガス『カーミングシグナル:理論と犬のストレスを軽減するための実践的応用』

三田村仰『はじめてまなぶ行動療法』金剛出版