問題行動を“治す”とは言いません。

 

心理学(行動分析学)を学ばれている方たちは、問題行動を“治す”とは言いません。

問題行動に“介入する”、または行動的問題に介入すると言います。

なぜこのような聞きなれない表現をするのかというと、「医学モデル」という行動観を連想させないためです。

医学モデルについては、過去にブログで何度も取り上げているのですが、改めて説明させていただきます。

この医学モデルとは、「人間行動に対する見方の1つで、人間行動をその背後にある心理状態の単なる症候とみる見方」と心理学の専門書には書かれています。『行動分析学入門より』

例えば、医学の世界では、発熱(症状)があるのは、体のどこかで感染が起こっている(原因)からだと考えられます。だからその原因を取り除こうと治療が行われます。これは医療現場では当たり前の考え方ではないでしょうか。

これと同じように問題行動を“症状”として考えると、その問題行動は体の内部にある何らかの原因(心や精神)が引き起こしている、となります。だから治すべきはその心や精神となるわけです。

 

問題行動に対してこの医学モデルで考えることの問題点に、

「目に見える行動に対して心理的な原因を推測したりでっちあげたりすることによって、実際の問題、すなわち行動を直すよりも、自分たちがでっちあげた心理的原因を治そうとしてしまう」

と専門家は述べています。

まさに、犬のしつけの世界で言われる“上下関係”という考え方は、この指摘そのものだと思います。

ワンちゃんたちの些細な行動すべてを、上下関係にこじつけ、その逆転した上下関係を正そうと、的外れなトレーニング方法が今までおこなわれてきました。

 

学習理論に基づいて行動の原因を考える時、この医学モデルを使いません。

行動の原因は、その行動に随伴している環境にあると考えるからです。

その行動の直前と直後にどのようなことが起こっているのか、

その行動はどのような環境で維持されているのか、

というような考え方をします。

 

問題行動へのアプローチに病気の治療を連想させないために、「治療」ではなく「介入」という言葉を用いているのですね。

私も「問題行動を治す」「問題行動が治る」という言葉を使うことはありません。

ただ「介入」という飼い主さんが聞きなれない言葉を使う事にも抵抗があります。

だから、、私は「解決」という言葉を使うことが多いです。

ワンちゃんの行動を何とかしようとするのではなく、その行動によって起こる問題を解決するという意味も含めて、「解決」という言葉を使います。

 

 

<さいごに>

この医学モデルを使わないという事は、問題行動が生物学的疾患とは無関係に起こるということを言っているのではありません。

問題行動を抱えているコに対して薬を使用することに反対しているわけでもありません。

今、目の前で起こっている問題行動に対して、学習理論に基づいてアプローチを試みる場合の考え方の問題です。